・多重人格化してゆく「私」・


あるウエブの詩投稿サイトで、私は「yo-yo」というハンドルネームを使って詩の投稿をしている。
そこでは投稿された詩に、さまざまな人が自由にコメントをつけてよいことになっている。
投稿された詩は、あくまでも1編の作品にすぎないのだが、多分に感情移入をしてしまう読み手としては、作者個人の告白のように受取ってしまう傾向が強くみられるようだ。
詩の内容から、その投稿者の人格なり背景なりを推測してしまう。これはネット詩という性格上、ある程度は仕方のないことなのかもしれない。
たしかに、いくらフィクションだといっても、真実に限りなく近い嘘や、嘘に限りなく近い真実が混合しているわけだから、詩の中に、フィクションとノンフィクションをはっきり線引きするのは難しいだろう。
詩の場合、特に情緒や感性を強く表現する時、言葉になったものは、詩としての完成度が高いほど作者の真実を伝えることになると思われる。

特に最近のネット詩における若い人たちの詩は、ダイレクトに心情を吐露したものが多く、したがって、他人の詩を読む場合も、同じような受取り方をして、ダイレクトなものを求めてしまうのかもしれない。
以前、私のある投稿詩に対して、「これはあまりにも悲しすぎます。実話でしょうか」というコメントをもらったことがあった。詩に対して、実話かどうかと問われても戸惑うばかりだが、このような詩の読み方もめずらしくはないのである。
私の詩は、小説のように、ある程度の状況なり情景なりを設定して書き込んでいくことが多く、現実感や生活感のあるものを表現するように努めているので、読む側としてはつい、実話ですか、と確かめてみたくなるのかもしれない。
多くの場合、私の書くものはフィクションである。作り話である。けれども、どの詩の中にも裸になった私がいることも確かなのである。詩の中で泣いたり叫んだりしているのは、私そのものなのである。
「実話ですか」とダイレクトにたずねられたら、実話でもあり、作り話でもある、と答えるしかない。作品の中では、人を殺す「私」が登場することもあるかもしれないからである。
「私」は女になったり男になったり、少年になったり少女になったりする。詩の中の「私」は多重人格なのである。

この投稿サイトで、私は性別も年齢も公表していないし、さらには自分のホームページも公開していない。だから私は実体のよくわからない、変幻自在のyo-yoさんということになっているのではなかろうか。
だが最近になって、同一人物から幾度かコメントをもらううちに、その人の中に、yo-yoという投稿者の人物像みたいなものが作られているのではないか、と思うようになった。
こういう人は、私の詩をいつも読んでくれている、本当にありがたい人なのだが、私の今まで投稿してきた作品の繋がりから、ひとりの作者像を作り出してくれているようなのである。
実のところ、私もそういったやり方で、幾人かのネット詩人像を私の中にもっている。そして、その人の詩を読むとき、私の中で作られた作者像を思い浮かべながら、その人の詩の世界に入ってゆこうとしてしまう。どうしても各人が持っている独自の詩の世界というのはあるのだ。
このような状況を、いつしか私は無視できなくなってきた。作られた作者像を裏切ってはいけないような気持になってしまっているのである。

そのようなことから、私はある程度、自分のスタンスを決めておかなければいけないだろうと考え始めた。
yo-yoという私は、大体40代初めくらいの女性という設定に、いつのまにかなってしまっている。先日投稿した詩の中では、小さな女の子供がいることになっていたので、私の年齢は更に少し下がったかもしれない。夫がいるのかいないのかは、今のところ不明である。
近々、夫婦のことを書いた詩を投稿する予定にしているが、これは両親の事柄として設定されることになると思う。本当の「私」は高齢者や男の詩も投稿したいのだが、その時にはyo-yoさんの父親になりすますことになるだろう。
先日、脳梗塞で失語症になった、88歳の義母のことを詩に書いて投稿したが、これもyo-yoさんの母ということで、60歳くらいの、まだ若い母親になっているのではないかと思う。
小さい子どもを抱えて母親の看病までするのは大変でしょう、yo-yoさんも体に充分気をつけるように、という励ましの言葉をいただいたりした。ありがたいが、面映くもある。やはり私はyo-yoさんになりきらなければ申し訳ないような気持になってしまう。

私は他人の詩にコメントを書き込むときも、決して「僕」という言葉は使わないようにしている。いつも中性的な「私」である。ときには女性らしい感性になって、女性の言葉でコメントすることもある。それがもっともyo-yoさんらしいと、私は考えている。

「私」を抜け出して、別の「私」になるということ。これは案外、詩の真実に近づいていることかもしれない。


      詩投稿サイトは→ http://www.poet.jp/


(写真は近所で見つけた小さな花。名前はわからない。)

(2004/05)

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