・山茶花・


山茶花と椿の違いを知ったのは最近のことだ。私にとって、山茶花も椿も同じ花だった。
彼女が椿を好きだと知ったので、私はときどき冒険をして、療養所の生垣にある花の枝を盗んだ。病室は並んでいた。彼女が寝ているベッドとの間には白い壁があった。ときどき彼女の気配が壁を通して感じられた。彼女が廊下に出るのを待って、私は椿の花のついた枝を渡した。
それから幾日か、椿の花が彼女の部屋で少しずつ花びらを広げていくのを想像した。ベッドに寝ていても、私は頭が熱くなって眠れなかった。壁を通して彼女の寝息が聞こえたような気がして、夜中に突然眼がさめることもあった。
その季節に咲いているのは、山茶花しかなかったことを後に知った。同じ季節がきて、私は今でも山茶花を折ってくることがあるが、この花は日毎に大きく花びらを広げ、最後にはすっかり平らに開ききってしまう。散る寸前の花の姿は、切ないほど精一杯である。

(2003/01)

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