・桜花幻影・


   花みれば そのいはれとは なけれども
   心のうちそ 苦しかりける
今年も桜が満開になった。あえて今年も、と言いたくなるような、桜の花には大きな時の移ろいを感じさせるものがある。
桜の花は、春がすみの空の中へと広がっている。見上げる時、人は花のかげに包まれている。桜の花は常にかげを保ち、影の部分に幻影を宿している。花を啄ばむひよどりに混じって、魑魅魍魎の影が漂っている。
   吉野山 こずゑの花を 見し日より
   心は身にも そはずなりにき
このひとときの想いは何だろう。影かげに潜む憂鬱な想いの正体は何だろう。懐かしい人たちのささやき声が、ときには蜂の群れよりも騒がしい。そして、一夜の春の嵐が、大いなる幻影を1枚1枚の小さな花びらに砕いて、再び時のかなたへ持ち去って行く。
   はる風の 花を散らすと 見る夢は
   さめても胸の さわぐなりけり
                   
                  (文中の和歌は西行作)

(2003/04)

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