・変容の季節・


5月、樹々の葉はめまぐるしく形と色彩を変えていく。
旅人が山あいの無人駅でぼんやり佇んでいる間にも、季節は慌しく移り変わっていった。
燃えるような若葉は、またたく間に緑の色を塗り重ねながら、樹々の間に広がっていた空の隙間を埋めていく。葉はそれぞれの形を着々と整え、ふくらんだ葉と葉は幾重にも重なり、林の天井は次第に層を厚くしてゆく。
四季を通じて、5月は最も自然の変容が激しい季節かもしれない。変化があり、勢いがある。風があり、香りがある。
やわらかな葉裏を撫でるように吹いてくる風は、微かに甘い花の香りを含んでいる。
どこに、どんな花が咲いているのか、見上げてみると、茂って盛り上がった樹のてっぺんが、いつのまにか満開になっている。
いろいろな花の形が、それぞれに異なった信号を、空に向かって発信しているように見える。
さあ、舞台の準備は万全といった顔をして、季節の役目を終えた5月は、再び慌しく去ろうとする。
そして、一炊の夢の後に、旅人は次の電車が来るのを待っている。

(2003/05)



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