フォーカス



川藻がしなやかに流れる瀬と
まばゆい銀色の稚魚のきらめき
16歳のままの君の白い脚がゆれて
見つめる私は
もう優しい言葉も語れない白髪頭で
いつのまに
私だけ年を取ってしまったのか

けれども
燃えたつ季節の芳香に誘われて
望遠レンズを片手に掴んだ私は
薄暗い記憶の階段を駆け降りてしまう

長い回廊の向こうの微かな光に
一瞬の風景が浮き上がる
地上にはいつもの街が待っている
激しい鼓動は駆けてきた青年のままだ
私はポストのある街角でカメラを構える

まっすぐな道の向こうから
紺色のスカートがいっぱいの風にふくらんで
24インチの君の自転車がまぶしい
川藻がしなやかに流れる瀬と
まばゆい銀色の稚魚のきらめき
16歳のままの君の白い脚がゆれて

私はせわしなく鏡胴をまわしてフォーカスする
君と自転車が二重にアップ
君との距離がぐんぐん近くなる
そして私は
いま君の全身像をキャッチする
16歳の君がそこに



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